瀬戸内醸造所の個性あるワイン造り|AKOMEYA TOKYO

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瀬戸内醸造所の個性あるワイン造り

この度、アコメヤで初めてオリジナル日本ワインを発売いたします。
そのワインを製造してくださったのは、瀬戸内醸造所。広島県を拠点として、現地で昔から栽培されている生食用ぶどうをふんだんに使った、瀬戸内ならではの味わいのワインを製造しています。
今回はその瀬戸内醸造所の代表・太田祐也さんに、たっぷりお話を伺いました。
瀬戸内醸造所をはじめたきっかけ、ワインの特長、瀬戸内への愛やこれからの展望など、熱い想いをお届けします。

瀬戸内醸造所のはじまり

出身は広島県三原市で、中学校までは三原市で過ごし、高校で違う大きな町に、そして大学で東京に出て、もうすぐ40歳ですが人生の半分以上は東京です。
大学卒業後、はじめは地域のブランディングや観光戦略を手がける会社を立ち上げました。全国様々な地域をたずね、課題などを伺ってみると、どこに行っても一次産業が問題を抱えていました。
継ぎ手がいない、生産量が少ないから観光コンテンツにするのは難しいなどの理由で衰退してしまっているという課題です。

また、ある観光機構の設立に関わる中で観光の意向調査をした時に、国内外の方の旅行意向で「地域の食を楽しみたい」というのが1位にきたのです。

一次産業の課題と地域の食を楽しみたいという需要を両方見たときに、観光客と生産者の方々のマッチングのギャップがあると思い、そこをうまくマッチングできれば地域にとっても良い循環がおこるのではないかなと思い始めたのが10年前です。
その後、しまなみ海道を友人たちと自転車でわたっていた時にふと、この島1つ1つにお酒があって、郷土の食材ペアリングができたら面白いなあ、と思いました。
瀬戸内自体が実はぶどうの産地であり、広島県が全国10位ぐらいの生産量、岡山が3位の生産量で、ぶどうの一大産地であるにも関わらず、そのイメージがあまり定着していません。
実は瀬戸内はぶどうの一大産地だ、ということを表現できるお酒とするならばワインだ、と思いました。
友人がフランスのブルゴーニュのシモンビーズという蔵で修業して帰ってきており、彼と一緒に、地域を旅するように味わえるようなワインを作っていこうと、ワイン造りを始めました。
我々の本拠地でもある広島県三原市の高坂というところに、約80年前からぶどう栽培をしている土地があり、そこで「ニューベリーA」(マスカット・ベイリーAの種無し品種)というぶどうの品種を使って1本目のワインを造ったのが2018年、それが我々のワイン醸造のスタートです。
その時は1.3tのぶどうを農家からお預かりして、私と仲間の3人で能登にある醸造施設まで約12時間も2tトラックを自ら運転して、ぶどうを持って行きました。トラックが風で煽られて揺れるたびに農家さんたちの笑顔が浮かぶ中、必死になりながら運転をしたのを覚えています。
2018年のそのワインが非常に美味しく出来上がったので、三原をはじめとして、隣町の竹原の「キャンベルアーリー」を使って2本目のワインを作っていきました。
そこからありがたいことに農家さんづてにいろんな方々をご紹介いただいて、お互いのプロジェクトが面白いので一緒にやっていきましょう、と輪が広がっていき、今では9地点の農家さんたち、農家さんの数では20件を超える方々とお付き合いをしながらお酒づくりをしています。

瀬戸内の一次産業を次世代に継承するために

瀬戸内醸造所は「瀬戸内の一次産業を次の世代に継承する」ことをテーマとして、農家さんたちが子孫に畑を継いでいき、食の多様性を次世代に残していくことをお手伝いしていきたいと思っています。
それを実現するために3つの約束を掲げています。

1つ目は「その土地のテロワールを表現する」
昔から栽培されている、生食用のぶどうやりんごを使ってお酒を造り、フェアトレードで取引をします。
地域の味を表現して、瀬戸内の食材とのペアリングもできるようにしていこうと考えています。

2つ目は「農家さんの新しい収益を作る」
我々の持っている苗木を農家さんにお渡しして、できたものを全量買い取りします。農家さんの安定収入ができるとともに、耕作放棄地の対策にもなります。
未利用資源の活用もしています。広島県庄原市の高野は、「西日本のりんご栽培発祥の地」と呼ばれている場所なのですが、2021年に霜の害でりんごが8割採れないということが起こりました。
その際に、ボランティアも兼ねて現地に赴いたところ、畑にはリンゴが確かに実っていませんでしたが、数箇所に小玉のリンゴがなっている場所がありました。これは、受粉用のリンゴの木で、なっている実は酸味が強いので売り物にならず捨てていることを教えてもらいました。酸味に興味を持ち食べてみると、お酒に向いている酸味でした。そこで、これを有償で引き取り、お酒にすることと決めました。未利用資源を活用しながら、美味しいシードルができました。
このような未利用資源も活用して、農家さんの新しい収益を作るお手伝いもしています。

3つ目は「耕作放棄地の活用」
ぶどうの産地は晴れが続くところが多いので、ソーラーパネルの適地でもあります。
耕作放棄地は、草刈など管理が面倒なのでソーラーパネルに変えることがありますが、そうなると耕作できる面積が減り、畑としての地力が弱まってしまいます。
そのようなぶどうの耕作放棄地も活用して、お酒を造っています。
ショベルカーの免許を私も取得し、これまでに約7.5ヘクタールの耕作放棄地を畑に変えています。

この3つが、我々が瀬戸内の一次産業を次の世代に継承するために行っているアクションです。

ワイン用のぶどうと生食用のぶどうの違い

最初農家さんには「ワインなんか腐ったぶどうで作るもんじゃろ」とよく言われましたが(笑)、いいぶどうからしか、いいワインはできないんです。この土地を表現するお酒を造りたいので、いいぶどうでぜひワインを作らせてください、と都度お話をしています。

ワイン用のぶどうというと、皆さん結構渋くて美味しくないのでは、酸がすごいのではとおっしゃるんですが、ワイン用のシャルドネなども生で食べると、とても甘くて美味しいんです。糖度は生食用のものよりも高いです。
栽培の方法でワイン用・生食用と用途が違うだけなので、元々のぶどうとしての質は一緒です。

瀬戸内醸造所のワインの特長

もともと私は酒業界・ワイン業界から入った人間ではない、単なるお酒をいっぱい飲んでいる人間(笑)でしたので、だからこそ発案できる考えもあると思っています。

僕らは、果実味があふれるような、農家さんが昔から飲んでいたかもしれないようなお酒を、みなさんに飲んでいただきたいんです。その土地ならではの味を表現したい。フランスイタリアなどのワインに似せて作るのではなく、地域の食に合う日本ワインを作ることを主眼に置いています。

ワインを飲み慣れた方から「こんな味は飲んだことがなかった」と言われます。おそらく「この品種はこうだろう」というみなさんの想像がつく味があると思うのですが、そこから離れていると。新ジャンルを作ろうとして作っているわけではないのですが、他とは全く違うワインづくりができているのではないかと思っています。

他社のワイナリーの契約農家さんで、樹齢がとても古い木のメルローの色づきが気候変動によって悪くなってしまい、ワイナリーさんに受け取れないと言われてしまった時、その契約農家さんが「もうぶどうの木を切る」と言い出したので、「ちょっと待ってください、絶対おいしいお酒にします」とうちがそのぶどうを全部買い取ったのです。色づきが悪いのであれば、色づきが悪いなりにおいしく醸造する方法を見つけよう、と。それでメルローのロゼのスパークリングを作ったところ、香港のアワードでその瀬戸内醸造所のワインが最多受賞をしたのです。

日本食だけでなく中華などにも合う、包容力のある面白いワインができているのではないかと思っています。

瀬戸内のワインと食のペアリング

三原の「ベリーA」は赤のスパークリングワインですが、タコに合うんですよ。
ぶどう畑の周りに昔鉱山があって、そこからミネラルが流れ込んできて、ぶどうにそのミネラルが吸収されているので、ミネラルたっぷりのワインができるんです。
スパークリングワインの赤なんですが、ぐっとくるようなミネラルの塩味を感じるのです。その塩味が、タコととてもよく合います。

竹原の方は、「フライドポテトに合うワイン」と表現しています。
竹原は、実は北海道のじゃがいも農業の種イモになったという歴史がある芋の栽培地で、そのじゃがいもをフライドポテトにして食べてみたら、このワインと最高に合ったのです。

面白いことに、いろんな産地とお付き合いさせていただいてペアリングを考えるんですが、その土地の食材と同じ土地のワインが絶対に合います。

世界共通言語としてのワイン

ワインは全世界中で愛されている、世界共通言語でもあります。
これから国内人口はどんどん減っていきますし、海外も見据えてビジネスをしていかなければという中で、ワインを作ることで、瀬戸内のテロワールと農業技術の素晴らしさを海外にも伝えていき、楽しんでいただける方々が増えると良いなと思っています。

今農家さんにお渡ししている苗木は、ソーヴィニヨンブランとセミヨンという品種です。国際アワードで賞をとりやすくするためには、国際品種を使った方がいいのです。果実酒は「農業のお酒」という表現をされます。農業が良くないと、いいお酒ができない。おいしい果物からしかおいしいお酒ができないという前提があります。農家さんの能力の高さをちゃんと表現するために、我々がメーカーとしてコンクールやアワードに提出をして評価をしていただいています。アワードの受賞が農家さんの誇りにもなっていきますし、ラベルにその農家さんの名前を入れることによってやりがいもどんどん出てきて、お互いに良い関係性ができていると思います。

技術力のある醸造家もおりますので、彼らと一緒に良いお酒を造るため、日々切磋琢磨しています。

アコメヤと瀬戸内醸造所の取り組み

広島は「農業の縮図」と呼ばれています。海に行けば柑橘が採れて、山に行けばりんごもぶどうも採れる、幅広い農業気候帯があるのですが、あまり発信しきれていません。
これだけ素晴らしいものがあるのですが、広島は人口が結構多いので、地域の中で完結してしまうところがあり仕方のない部分もあるのですが、もっと外の方にも知っていただけるように発信をしたいと思っています。
「地産地消ではなく、地産多消」とよく言っていまして、やはり地域だけだと数も限られてしまいますし、より多くの地域で楽しんでいただくための仕組みづくりをしていくのが、我々メーカーの役割です。
そのために、アコメヤさんのように情報を発信しながら販売いただけるような会社と連携をさせていただきたいと思っています。

今回アコメヤ全店で販売するワインは、飲みやすい小瓶のサイズになっています。
ギフトとして贈る時に、小瓶と他の食材とをセットにして贈ることもできます。
小瓶であれば気軽に楽しむことができますので、まずは入口として味わっていただければと思います。
実は、日本のワイン自体が「出汁に合うワイン」と呼ばれているんです。出汁を中心にしたアコメヤさんの日本の食材とは、最高のペアリングだと思います。ぜひアコメヤ店内で販売されている日本の食とともにお楽しみいただきたいと思います。